名古屋市で、一昨年、殺処分された猫は152頭。他方、路上で死亡した猫は3,939頭でした。
なぜ、これほど多くの猫が路上死するのしょう? また、どうすれば、それを減らすことができるでしょうか?
貴方は、最近、どこかで「のら猫」を見かけましたか?
もしも、その猫が、日向ぼっこしながら寝ていたなら、「のびのびと生きててイイな」と感じたかもしれませんし、可愛い子猫なら、心が和んだかもしれません。
一方、猫が近所でゴミを漁ったり、自宅の庭に糞尿をしたりといった迷惑行為に困っているなら、怒りや苛立ちを感じられたことでしょう。
ただ、どちらの立場の方にも、思い起こしていただきたい事実があります。それは、日本には、沖縄のイリオモテヤマネコ等、一部を除き、野生の猫は存在しない、ということです。
外で見かける「のら猫」たちは、皆、元は人に飼われていた家猫(イエネコ)か、その子孫であって、身勝手な人間に捨てられた被害者なのです。
捨てられた猫がたどる道
猫が捨てられる理由は様々です。
引っ越し、経済的困難、猫アレルギーの発覚、「思ったより手がかかった」というものや、高齢の飼い主が施設に入所したり亡くなったりして、親族の手で捨てられるケースも増えています。
こうして突然、外に放り出された猫にとって、そこは想像を超える過酷な世界です。
エサも水もどうやって探せばいいのか分からない彼らは、飢えと渇きに苦しみ、天敵のカラスや車、人間からの虐待などを避けられず、次々と死んでいきます。
何とか生き延びた猫たちも、次世代を生み出す過程で新たな苦難に直面します。
母猫の多くはウイルスや細菌に感染しているため、それが子に受け継がれ、免疫力が弱い子猫はあっと言う間に発病し、絶命します。また、生後1ヶ月頃まで自分で体温調節ができないので、春先の寒さも命取りに。
そして、夏は炎天下の中、熱中症に倒れ、冬の寒さや豪雨・台風による低体温症も、死に直結します。
こうした苦難を乗り越えて成長した猫たちに、最大の危機が訪れます。
「発情期」です。
発情期に起こる恐ろしいこと
本来、猫は平均半径50mという、狭い縄張りの中で生活する動物です。ですので、通常は、エサと水が十分にあれば、交通量の多い道路をわざわざ横断することはありません。
しかし、発情期になると状況は一変します。
発情したメス猫が出すフェロモンに引き寄せられ、集まったオス猫たちが縄張り争いやケンカを始めます。興奮したオス猫は、縄張りを越えてメス猫を追いかけ、メス猫も、普段は行かない場所に逃げ込みます。
こうして、多くの猫が道路に飛び出し、車に轢かれる危険が一気に高まるのです。
では、一体、1年間で何頭くらいの「のら猫」が、路上で亡くなっていると思いますか? また、それは、全体の何%程度に当たるでしょう?
いきなりそう聞かれても、皆目、見当がつかないと思いますので、ヒトの場合を例にとってご説明します。
名古屋市の現在の人口は、約230万人です。そして、令和5年度の名古屋市における交通事故の死者数は33名でした。これは全人口の0.0014%に当たり、大体、7万人に1人の割合です。
では、猫の場合はどうでしょう?
昨年(令和5年度)、名古屋市内で路上死した猫は、3,442頭。
名古屋市内には、約1万3千頭の「のら猫」が生息していると推計されているので、これは実に、全のら猫の26.5%に当たります。
なんと、約4頭に1頭もの「のら猫」が、路上死している計算となり、これはヒトの約1万8千9百倍です。
こうしたことは、猫の平均寿命にも表れています。室内飼育されている猫の平均寿命が14.2歳(アニコム動物白書2023)であるのに対し、のら猫の平均寿命は、わずか3~4年と、極端に短くなっています。
しかし、この悲惨な現状を打破する方法が、一つだけ存在します。
「不妊手術」です。
不妊手術は今を生きる猫も救う
不妊手術が、新たな子猫の誕生を防ぎ、これ以上苦しむ猫を増やさない対策であるのはもちろんですが、それに加え、今を生きるのら猫の命を守る効果もあるのです。
※ 詳しくは「猫の路上死」をご覧ください。
まず、手術を受けることで、猫の発情期がなくなります。発情期が無くなれば、道路に飛び出すリスクは格段に減少します。
また、発情期に猫同士のケンカで負傷し、不衛生な環境で感染症になり死亡する猫も大勢いますが、不妊手術を行えば、そのような命も救うことができます。
不妊手術はヒトと猫とが共存する【鍵(カギ)】
こう書くと、猫を迷惑に思っている方は、「猫が死ななくなって数が増え、迷惑度が増すのでは?」と心配されるかもしれませんが、それは、おそらく杞憂でしょう。
なぜなら、猫は「繁殖力」の強い動物で、メスは1年で8~18頭の子猫を産むため、一組のつがいが、2年後には80頭、3年後には2000頭に増えるといわれています。(環境省「もっと飼いたい?」より)
それが、不妊手術をすれば、この繁殖の連鎖を止められるのですから、その結果として全体の数は減っていくはずです。
しかも、不妊手術を受けた猫たちは、尿の匂いが薄くなり、発情期特有の鳴き声を発しなくなるため、ご近所の迷惑度も相当、軽減することが期待できます。
このように、「不妊手術」は、猫を救うだけでなく、ヒトとのより良い共存を実現++--するための【鍵】だと言えます。
「不妊手術」によって、のら猫たちを苦しみの連鎖から解き放ち、猫とヒトとが共生する都市、名古屋を築いていくため、皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。
2024年12月
※ 詳しくは「猫の路上死」をご覧ください。
関連リンク
名古屋市:のら猫に対する取り組みについて
名古屋市動物愛護センター事業概要
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